最高裁判所第二小法廷 昭和53年(行ツ)79号 判決
東京都文京区根津二丁目一五番一〇号
上告人
金太圭
右訴訟代理人弁護士
松山正
有賀功
古波倉正偉
安藤壽朗
東京都台東区東上野五丁目五番一五号
被上告人
下谷税務署長 金親良吉
右当事者間の東京高等裁判所昭和五〇年(行コ)第三〇号所得税更正決定処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人松山正、同有賀功、同古波倉正偉、同安藤壽朗の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉田豊 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 本林譲 裁判官 栗本一夫)
(昭和五三年(行ツ)第七九号 上告人 金太圭)
上告代理人松山正、同有賀功、同古波倉正偉、同安藤壽朗の上告理由
一、原判決には重大なる事実の誤認があり、判決に影響を及ぼすこと明らかな審理不尽がある。
(一) 上告人のゴルフ部門及び喫茶部門の算出所得は、いわゆる推計課税の方法により算出したもので、その所得金額の認定が極めて不当かつ合理性を欠くものであることは、第一審以来主張しているところである。
然しながら原判決で指摘しているとおり、これをひとまず前提として、上告人の所得を算出してみると次のとおりである。
即ち、
ゴルフ部門 喫茶店部門
算 出 所 得 一三、二八二、三一四 四、五七六、六六九
雇 人 費 二、七〇〇、〇〇〇 三、五四〇、〇〇〇
建物減価償却費 一〇〇、二五九 三七〇、五七六
地 代 家 賃 一七五、〇〇〇
借入金利子 四、八六五、七七五
特別経費合計 七、八四一、〇三五 三、九一〇、五七六
所 得 金 額 五、四四一、二八〇 六六六、〇九三
(二) 右所得金額の計算において、上告人はゴルフ部門の雇人費として金二七〇万円を主張した。又喫茶部門の雇人費として金三五四万円を主張し、これに沿う証拠として乙第二及び三号証の一並びに上告人の供述が存在する。
然るに原判決は、乙第二及び三号証の一の中の記載部分は実額を記載したものとは認められないもの、上告人の供述も前掲各証拠に照らして措信できないものとして背せきした。
然しながら、原判決の指摘する前掲各証拠とは乙第一七号証の一ないし六の源泉税の領収済通知書及び中川和夫証言であると思われる。
この源泉税領収済通知書に記載された支給金額の合計額がゴルフ部門の雇人費であつて、右以外の雇人費の支出は措信できないと述べているが、上告人が第一審で述べているとおり右領収済通知書に記載されている雇人及び支給額は源泉税の徴収基準に達している者のみを記載しているのであつて右徴収基準に達していない者の給与並びにアルバイトとして支払つた雇人費は含まれていないのである。
上告人が所有する店舗の規模からいつて領収済通知書に記載された雇人費だけでは、到底処理しきれないことは明らかである。従つて原判決がこの点の審理を尽すことなく、何らの理由を明示しないまま、雇人費の主張を排斥したことは、重大な事実誤認を犯したばかりでなく、審理不尽の違法があるものと断ぜざるをえない。
特に喫茶部門の雇人費については乙第三号証の一において具体的に人員と支給金額及び期間を記載して、総額金三五四万円の支払があつたことを主張しているのに対し、原判決は、実額を記載したものではない他に雇人費の支出を認めるに足りる的確な証拠がないと認定するが、右認定に到る理由が明らかでない。又この点の審理が充分尽されぬまゝ認定したもので明らかに審理不尽である。
(三) ところでゴルフ部門及び喫茶部門の償却費の計算について上告人は建物取得価額を次のとおり算出した。
即ち建物と土地との合計額が記載されている売買契約書から建物のみの取得価額を算出するにつき、右代金額における建物と敷地との価額の割合は、その購入した昭和三八年当時の客観的な価額に応じてこれを按分して定めるのを相当とするが、その価額として上告人は固定資産評価額を基礎とした。
然るところ、土地については昭和三八年度の固定資産評価額がえられなかつたので昭和四四年度の各固定資産評価額によるべきであると主張し、その評価額の按分によつて建物の取得価額を算出した。
原判決は、評価額証明がえられないからといつて、土地の価額につき、右年度と異つた年度の固定資産税評価額によるのは相当でなく、また、土地の価額につき昭和三八年度における固定資産税評価額を認めるに足る証拠もないので、各価額につき同じ年度で評価できる相続税財産評価基準に基づく評価額によるのが相当であると認定する。
上告人の主張する固定資産評価額にもとづき計算する場合、確かに昭和三八年度の評価額の証明は得られないものの昭和四四年度の土地の評価額は昭和三八年度の土地の評価額を優に上廻つていることは公知の事実である。
そうであれば、仮りに昭和三八年度の土地の評価額がえられたとして、同年度の建物の評価額とで、按分して、建物の取得価額を算出した場合と、昭和四四年度の土地の評価額と、昭和三八年度の建物の評価額とで按分して建物の取得価額を計算した場合とでは、明らかに後者の方が、取得建物価額は小さくなるのである。
従つて、右の計算方法は被上告人に有利に作用こそすれ不利に働くことはありえないのである。
かかる方法をもつてすれば、上告人の計算によればゴルフ部門の建物取得価額は金三一四万六九一〇円となり、喫茶部門の建物取得価額は金一五〇二万二八三七円となる。
然るに原判決は、右建物取得価額を算出する基準として相続税財産評価基準にもとづく評価額を採用したが右はあくまで、相続する場合の政策的な配慮にもとづき定められた基準であつて、本件の場合これを適用することは誤りであるといわざるをえない。
従つて建物の減価償却費の計算上は著しいひらきとなつてあらわれるし、事実認定につき重大な誤認を犯したもので原判決は破棄を免れない。
以上